ヒグマの場合
この数年、知床国立公園内でのヒグマへの餌付けや投棄したゴミに餌付いてしまうという事例が報告されています。ヒグマは力の強い動物です。人の食べ物を食べてしまったヒグマが、車や人に平気で近づくようになり人命を伴う大きな事故を引き起こす可能性があります。餌付いてしまったヒグマは、駆除しなければならなくなってしまうかもしれません。写真は、私たちの事務所の近くに落ちていた空き缶です。ヒグマが缶を噛んだ跡がくっきりと残されています。自分の命を守るためにも、後から観光で訪れる人たちの命を守るためにも、ヒグマの命を守るためにも餌付けやゴミの投棄はしないようお願いします。
知床では、「知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン」を行っています。詳細は、「知床ヒグマえさやり禁止キャンペーン」のページをご覧ください。
キタキツネの場合
道路脇に何かを置く観光客。近くにキタキツネが顔をだしています。不審に思ったため引返したところ・・・
道路脇にはドッグフードが二缶分置かれており、キタキツネが餌付いてしまいました。こうした餌付けにより、下図のような結果を招いてしまうきっかけとなります。
●交通事故
餌付けされたキタキツネは、道路上でウロウロと徘徊するようになったり、行動がエスカレートすると、路上で座り込んで車を停車させようとしたりします。そのため、交通事故によって死亡してしまうことが多くなるのです。
●エキノコックス症
キタキツネは、エキノコックス症という寄生虫を持っていることがあります。この病気は、もともと日本にはなかった病気です。サナダ虫に近い仲間である多包条虫エキノコックスは、キツネやタヌキ、ペットでいえばイヌやネコの糞に虫卵が含まれます。何らかの理由で飛散した虫卵が経口感染することで人の体内へ侵入し、病巣を肝臓などに形成します。餌付けは、不用意にキツネとの距離を縮めてしまうため、エキノコックスの虫卵をもらってしまう可能性があります。
●疥癬(かいせん)
キタキツネにとって、普段食べているものと違い、人から与えられるものは自然の中にはない脂質や糖分、塩分が多く含まれています。したがって、消化が難しくお腹を壊してしまうこともあると言われています。そのため長期間、餌付けにさらされたキタキツネは、体力や免疫力が衰え、病気にかかりやすくなるのです。ヒゼンダニというダニの寄生によって発症する疥癬は、全身の毛が抜け落ちてしまい、体温の維持が難しくなる皮膚病です。病気にさせないためにも餌付けは行わないようにしましょう。 ※下は、疥癬と思われる病気にかかったキタキツネの映像です。
野鳥の場合
野鳥の中には、国境を越えて渡ってくる鳥たちも多くいます。特にガン・カモ類は長距離を移動し、本州方面で越冬しています。ユーラシア大陸から渡ってくる彼らが、鳥インフルエンザを持っている可能性が指摘されています。こうした鳥たちへの餌付けは、野鳥への接近を招き、病気を人へ感染させてしまう危険性をはらんでいるのです。現在の鳥インフルエンザは、人から人への感染する可能性が低いと言われていますが、インフルエンザウイルスは変異が起きやすく、新たな変異が生じ、人から人へ感染できるようになってしまうと、新しいウイルスに免疫がない人間は大きな影響を受けてしまうと考えられています。
野生動物へ餌付けをしないということも重要ですが、一定の距離を保つということもとても大事です。知床国立公園内では、車で走行していると道路脇にヒグマやエゾシカ、キタキツネなどが普通に歩いている光景をよく目にします。特にヒグマについては、距離が近すぎることで大きな事故に発展する可能性を秘めています。人のことを気にしないヒグマが、道路脇にいるときに車を横付けしたり、人が車外に降りて写真や動画の撮影をしている様子に出くわすこともあります。これは一歩間違えれば人の命に係わり、事故が起きれば、事故を起こしたヒグマの命も奪うことになります。また道路上では過度の渋滞が発生し、交通事故を引き起こしかねない状況にもなります。野生動物がいる場合は、接近しすぎないこと、適度な距離感が大切です。